2012/09/05

おせち料理

桑田荘太が目覚めたのは、朝の9時過ぎだった。目覚めたといっても3度目だった。

齢とともに夜トイレに起きる回数が増えたと言えば前立腺肥大症だとすぐ言われそうだが、桑田は子供のころから神経過敏でトイレも近かった。10年ほど前に病院で点滴しながら検査してもらったが異常ないと言われた。寝る前の水分量もだが、精神状態が大いに関係するのだと自らに言い聞かせていた。それで最近は、過敏性膀胱か過活動膀胱ではないかと自己診断している。

起きながら、会社に勤務しているわけではないから、気にするな、と内心でつぶやく。カーテンを開けると眩いばかりの陽が射している。

ダイニングに行き冷蔵庫を開けた。年が明け4日の夕方スーパーで買ってきた平べったいプラスチックの容器を冷蔵庫から出した。おせち料理の残りがころがっていた。ニンジンやシイタケは子供のころは好きでなかったが、齢とって好きになった。トースターでパンを焼き、オレンジジャムをのばし、温めた牛乳をゆっくりと口に運んだ。

と、その時、電源を入れたままにしておいた炬燵の上のノートパソコンがうなりだした。

急いでヘッドフォンをつけコードの先をパソコンに差し込もうとしたが、うまく入らなかった。ハローという声が遠くで聞こえる。

「遅くなったけど、あけましておめでとうございます。サト子です。お元気でしたか?」

「ええ、元気ですよ。そう言えば、元旦に留守録入ってましたね」桑田が寝ている間に、フロリダがまだ新年になる前に、日本が新年を迎えたことを確認して頃合いをみてかけてきたに違いなかった。

桑田は、いつも留守番電話に設定しているが、最近は高齢者を狙った詐欺が多いので、そうするようにとの電話が警察関連のセンターからも月に一度ほど案内がある。

「わたし、ロバートとニューヨークへ行って来たのよ。寒かった」

そういえば、前回スカイプで話した時、年末に同居しているロバートとニューヨークへ行ってくると言っていたことを思い出した。

「サト子さんとこは、日本の沖縄より少し南だから普段暖かいでしょう」ビデオ設定で話しているパソコン画面のサト子は半袖姿だ。桑田は右下に小さく映っているが、長袖の上にカーディガンを羽織っている。

話がむかしのことに及び長引来そうなので、桑田が途中で大丈夫かと訊くと、明日は休みだからという。ロバートはどうしているのかと訊くと、パソコンの研修に行っていて帰りは遅いのだという。なんでも新しい職場でパソコンでの操作が出来ないといけないので、このところずっと研修が続いているのだという。

20:45、とフロリダ時間が桑田のパソコン画面の上に表示されている。
1時間半も話したからまたにしよう、と桑田が言った。3度目だった。

See you again.

See you.


日本を嫌い、フロリダへ職を求めて渡ったことが、サト子にとっては良かったのだろうか。
パソコンを閉じ、桑田は食事中だったことを思い出した。


To Be Continued

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