2012/01/15

愛って

名古屋駅から徒歩10分の所にあるビルの3Fに春利の勤める会社はあった。

タイムカードを押しに春利が事務所に入った時、奥のデスクにすでに来未の姿があった。春利に視線を向けた来未の顔が一瞬ほころんだ。春利も首を少し振って合図を送ったが、胸が熱くなった。

廊下に出て、パーティションで仕切られた部屋のドアを開けると、すでに同僚や後輩たちが席に着いていた。入社して研修期間が終わった後、春利は、営業部でセールスエンジニアとして外回りを始めた。5年して主任になり、会社回りも後輩と同行することも多くなっていた。

午後から出向く会社の担当者とは5日前にアポが取れていた。自動車部品を扱っているその会社の上役の誰かがネット上で調べたのか、春利の会社の製品について詳しく知りたいので一度話を聞きたいというのだった。
春利を呼んでそのことを話したのは課長だった。工業用接着剤の御社の製品の詳しいことを聞きたいという話をもらってすぐ、春利は先方の担当者と連絡を取った。

午前中のミーティング後、春利は後輩を連れ課長と打ち合わせをした。県内で比較的近い場所とは言え、初めての会社だし早めに行った方が良いだろうと、昼食を済ませるために後輩を伴って会社に近い店へ入った。佐野という後輩も工学部を出ていて春利より4つ年下で気心も合っていた。

「課長、自ら行かないで僕らにこの営業を任せたのはどうしてかな」

「それは、沢主任を信頼しているからじゃないですか。この分野に詳しいし・・」

「そうかなあ」

「それにうちの会社、海外にも支店が多いから、課長がちょっと触れていたように、ひょっとすると、主任も・・」

「いや、それはまだ聞いていないから」

確かに、世の中ではリーマン・ショック以来、金融危機だ不況だと言われて久しいが、工業用シール剤・接着剤や塗布装置の開発・製造・ 販売を行っている春利の会社は、中小企業とは言え着実に売り上げを伸ばしていた。

対面営業と提案営業を重んじて推進している社の方針が良いのかもしれない、と春利は思った。海外と言えば、アメリカよりアジアでの成績が伸びていることは、春利もグラフを見て実感していた。

「主任は、結婚はまだですか」

「なんで突然?」

「いや、僕の姉が、一つ年下なんですが、来春結婚するんです。義理の兄になる相手の人は主任と同学年だし」

「あ、そう。年が明けると、2月で僕も29になるけどね、それはおめでとう」

ネクタイに手をやり、春利は来未のことが頭に浮かんだ。その時、ランチを載せたトレイを手に店員がやってきた。


To Be Continued

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