2011/10/12

桑田荘太は、管理事務所前のベンチに手提げ袋を置きとなりに腰掛けた。1時間あまり歩くと手足の痺れもいくぶんやわらいだ。11月後半とはいえ、背中と額にうっすらと汗をかいていた。ベンチの背後には常緑樹の垣根が続いていたが、見上げると月も星も確認できた。

眼の側へ腕時計を近づけた。天から注がれる光と管理事務所前の常夜灯の明かりでアナログ時計の針が確認できた。6時半になるところだった。

桑田は、昨年春に派遣で働いていたネット関連の会社をリストラされた後、10あまりの会社へ履歴書を送ったが、多くは1週間もたたないうちに不採用通知が返送されてきた。3週間たっても何も言ってこないところもあった。新聞や折込募集を見ると、先に履歴書を送るように書かれていたのでその通りにしたが、送るだけでは駄目だと思い、何度か先に電話してみた。

「60までなんです」電話に出た年配女性の声が返ってきた。1日5時間のアルバイトでも駄目か、と受話器を置きながらつぶやいた。

以来、桑田は応募を止めてしまった。ネット関連の会社でパソコンを開きながら電話営業を3年半やった経験から、家で、インターネットで稼げないだろうかと思った。メールで送られてくる情報商材をいくつか購入した。
書かれているようにやってみたが、1円にもならなかった。

わずかな貯金をきりくずしながらの生活が始まった。半年に1回か2回、アフィリエイトで1万とか2万の収入が出た。アンケートで月千円ほど稼げた。パンと牛乳と野菜中心の生活が続いた。生命保険を解約した。テレビも6年前に壊れて以来ラジオだけの生活だったが、インターネットでニュースが読めるので困らなかった。テレビがないのにNHK受信料が引き落とされていることに気づいた。ハガキを送り、受診契約を解除した。毎日届く新聞もネットで読めることが分かり購読を中止した。

猛暑の夏は陽が落ちかけたころ家を出た。血糖値が上がらないよう、雨が降らない日は1時間あまりウォーキングして、帰りに必要最小限の食物を買った。

ベンチの背で静かに身体をそらして天を仰いだ。メガネの度が合わなくなっていたが、ぼやけてはいても輝く星の光は確認できた。

桑田は、ふと足元に目がいった。歩道の常夜灯の明かりが届いていた。


To Be Continued

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