2015/09/01

混合種

花金などという造語は使わなくなったろうか。午後2時を回ったその時間サラリーマンは勤務中だろうが、それにしても、車が来なければ歩道ばかりでなく車道にも人がいっぱい歩いている。若者もいれば高齢者もいる。営業まわりの社員だろうか、暑いのに背広姿の青年もいる。半袖の春利は名古屋に勤務していたときを思い出す。

2人の足で5分余り。春利が父と来たことがある喫茶店はすぐ前方に見えた。

二階の奥行きのある喫茶店は、父と来たときと同じように空いていた。2人は窓側の席をとり、とりあえずアイスコーヒーを2つオーダーした。

「それで、谷川良治とカナさんがイトコだというのは・・」

「ええ。メールで数回やり取りしたところ、渋江カナさんのお父さまとタニカワリョウジさんの関係は、渋江さんの2歳年下の妹さんの子供がタニカワリョウジさんだと分かったわ。妹さんは大学を出てすぐ結婚され、リョウジさんが生れたのね。カナさんのお父様は、博士課程とか出て、アメリカの大学にも留学したみたいだから、結婚が遅かったのね」

「そういうことだったのか。それにしても、どうして良治は小3でとつぜん金星に?」

「当時は分からなかったけど、夏休みに、長野県の伯父さんの別荘へ遊びに行ったらしいわ」

「何、長野県のどこ?」

「沢さんのお父様も諏訪でしたね。中央線の信濃境駅から歩いて15分位で、井戸尻遺跡の近くみたいだけど」

「実は僕は父の生家には行ったことがないけど、井戸尻と言ったら、父が井戸尻考古館へ行ってきたと以前言ってたことがある。カナさんのお父さん、渋江さんの別荘に実験室みたいなのがあるのだろうか?」

「ええ。カナさんが言うには、リョウジさんは小学校に上がってから、いくどもそこへ遊びに行ったことがあるっていうの。だから、伯父さんがいなくても一人で駅から歩いて行かれるって」

「ということは、もしかしたら、そのときは伯父さんはその場に居合わせなかった」

「ええ。カナさんのメールでは、その時は、大学の研究室にいたのではないかって。だから渋江さんも、リョウジさんが実験室のある自分の別荘へ行ったとは思わなかったわけね」

「それにしても、小3の良治は、母親にも誰にも知らせないで、勝手に横浜から一人で信濃境の伯父さんの、そこへ行ったというのか」

「その可能性があるわね。夏休みだし、横浜からだったら小3でも一人で電車に乗って行かれないこともないと思うわ」

「何かに引き寄せられるように・・。それにしても、その別荘にはどんな実験装置があったんだろう」入口に姿を現した男女の客の方へちらりと視線を走らせ、春利は小声で言った。

To Be Continued

Sponsored Links