2015/03/31

マリア現る

「クミはあなたがたの住んでいる空間から別の空間へ移動しました。だから、もう会うことはできません」

「われわれ人間は、肉体は地球の土に還り、魂は天に昇ると考える場合が多いのですが」

「それは、わたしの知っている世界とは少し違いますが、まちがってはいません。からだは地球の土となり、あなたのいう魂は別の空間へと移動して行ったのです。多くの人間は、生きたままでは、その別の空間へ移動できません」

「出来る人間もいるのですか?」

「いますが、とても少ないです。その人には、わたしの世界に近いものがそなわっています。それでは、お別れのときがきました」

春利がその意思を受け止めた次の瞬間、見上げていた雲の向こうの光の渦のようなものが一瞬にして消えた。視線を落とすと、あたりはすっかり暗くなっていて、等間隔で点っている常夜灯の明りだけが周囲を明るくしていた。

春利は常夜灯に照らされた立木がつくる影が延びている芝生の上を歩いた。すっと沈むような感覚が足下から上がってくる。上空の雲の間に星が見える。

先ほどまで立ち込めていた灰黒色の雲がなくなっている。いったい、どこへ行ったのだろう。上空を見回してもそれらしき物体は見当たらない。

コンクリートの坂道を登って行く。夢ではなかった。確かに、この僕に明確な答えをくれた。来未のことにふれ、早乙女さんのことも知っていると。

先ほど歩いて来たゲート橋が異星の橋のように思われる。眼下のフットボールパークの向こうをJRの電車が移動して行く。車窓から漏れるライトを頼りに車両数をカウントする。8両だと呟き、間違いなく地球にいるんだと自らに言い聞かせる。
まったく予測していなかった存在と意思を通じ合えたことを思い出し、大きな満足感に包まれる。

石段の向こうを走る車のサーチライトに胸が躍る。ここは地球。チワワを連れた女性の手にライトが光る。自転車が通り過ぎる。駅の周辺で食事をしていこうと思う。うれしさが込み上げる。

To Be Continued

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