2014/12/04

世界の向こう

「先生! シャンハイにいたんだって?」

同じ駅ビルの上階に移動して二人で昼食をすませた春利は、武蔵野の生家へ帰るミナを改札口まで送り、地下鉄を利用しないで40分余り歩いて住まいに着いた。運動不足だからという理由と歩きながら気持ちを切り替えたいと思った。

新小4になる女の子がブザーを押したのが、午後3時前だった。4人は知り合いか友達かもしれないが、そろって一緒に現れた。

応接間に並べた長い机の両側に二人ずつかけた。勉強が始まる前に自己紹介をした。質問してきた子の顔を見て、春利は貼紙を見て訪ねてきた母親の顔を思い出した。髪が長く目が大きくて不思議な輝きを帯びていた。あの母親にとてもよく似ている。

「そう。今年の2月まで」

「長くいたんですか?」並んでかけている別の子が訊いてきた。

「2年。上海に行く前は名古屋にいたけど、生れは横浜市だよ」

「ねえ、先生子供のころ勉強好きだった?」今度は反対側のぽっちゃり顔の子が訊いてきた。

「う~ん、ふつうかな」

「わたしも」隣りの子が自分を指さした。

新小4年生。この子たちとならうまくやっていけるかもしれない、と春利は思う。4年生くらいから学校の勉強がむずかしくなるということもだが、申込書の要望欄には4人とも中学受験校が書かれている。どうして進学塾へ入れないでここへよこしたのだろうという疑問もあったが、親が望み子供もそれなりに受け入れたというのだろうか。それとも、ガリ勉の進学塾をきらったのだろうか。

いずれにせよ、春利が団地の住人ということで、信頼して月謝を払い預けてくれたのだから、その思いを裏切らないようにやって行こうと思う。

「それでは、割り算の復習から入ります」あらかじめ用意しておいたプリントを配りながら、春利はふと亡くなった来未のことを思い出した。

To Be Continued

Sponsored Links