2014/08/05

桜の木の下

春利は桑田荘太のところに4日間いた。25年ぶりにわが子と会った桑田は味わったことのない安心感を覚えた。桑田は妻・さなえと別れたくはなかったが、さなえの方の拒絶の度合いが強く、春利とさなえのいる団地の住まいから出て行かざるを得なかった。

「父さんは母さんを愛していたの?」という春利の問いに、「うん」と応えた。

「人間てむずかしいな。両方が相手を受け入れられなければ、同じ屋根の下には暮らせないからね」
今度は春利が首を縦に振った。

桑田は、さなえや春利を嫌って家を出て行ったのではないことが春利に伝わったことがうれしかった。家族を養っていかれるだけの収入を得られる仕事が見つからなかった。神学部の4年終了後、もう2年学んで実習を終え、牧師になることが桑田にとっては良かったのかもしれないが、裸一貫で伝道の道に進み、牧会とメッセンジャーで生涯を終える道に突き進むことが出来ない気がした。一般人として普通に生きたい、伝道するには心が不安定すぎると学年が上がる度にそういう思いが募った。やはり、幼少期からの大切な時期を、実母なしで義母とのゆがんだ抑圧の日々を経たことが原因していると思った。

春利にすべて分かってもらうことは無理だが、家族を嫌ったり浮気をしたのではないことは伝わっただろう。そこまで行くと、桑田はふいに桜の木の下にいたレギンスの女の子のことを思いだした。春利がいる間は思い出さなかった。あれは幻視なんかではなかった。もしかすると、と桑田は思った。春利が付き合っていたという会社の女の子ではないだろうか。名前は聞かなかったが、福島で地震の津波に呑み込まれたという。

機会があったら、それとなく春利に訊いてみたいと思う。そういうことだってあるかもしれない。

To Be Continued

Sponsored Links