2013/12/21

光る物体

8月に入っていた。

前年の夏はひどく暑かったと、桑田荘太は思いだした。それに比べれば過ごしやすいのかもしれないが、妙にひんやりとした空気が国内にただよっているように思われた。気候というより奇妙な静けさだった。

ラジオからは、東北地方の復旧がまったく進まないこと、行方不明者の数などが流れていた。

桑田は、一番暑い時間をさけて家を出て、新横浜公園の方に行ってみようと思った。

昨夜スカイプで連絡があったサト子は、飼いはじめたラグドールの名は、「アイ」にしたという。

アイって、"love"の愛かと訊くとそうだという。ロバートが名前は「ネコ」で良いじゃない、と言ったということを思い出し、ロバートが付けたのかと訊くと、私が付けてロバートもOKしたから、と。

猫というと、桑田は新横浜公園の周辺にいるノラ猫のことが浮かんでくる。正確には日産スタジアムや新横浜公園へ行く手前の川の周辺にいる猫たちを指すのだが、桑田がその辺りへ引かれていくのは、一人息子の春利との思い出があるからだった。

桑田が川崎市麻生区にある家を出て、小田急線の駅へ向かったのは午後4時半頃だった。前の年に比べたら猛暑とは言えないまでも、真夏の西日が射すその時間、駅の近くまで行くとハンカチで額の汗をぬぐっていた。

到着した電車に乗り、空席があることでほっとした。節電のためかクーラーも弱めで桑田には適温だった。

町田でJRに乗り換えても、会社員の帰宅ラッシュは避けることが出来るだろう。座った状態で少し痛む右膝をさすった。

ドアに近い所に座っている30過ぎの男に目がいった。夏用のグレイで薄手の背広だったが紺のネクタイが決まっていた。

会社員と思われるその男がメモ帳を開いて何かチェックを始めた。

春利はどうしているだろう・・。


To Be Continued

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