2016/02/29

八ヶ岳山麓

「いや、その、先ほどのつづきで、ここに別の惑星へ行かれる装置があると、伝えてきたんだ。それで、向こう側へ行って、この円柱形がどうなっているか見ようとしていたところで、人の気配がして、そうしたら春利の声がして」

「じゃあ、まだ中は見てないんだね」

「見てない」

「でも、父さんと僕とにそれを知らせようとしたということは、何か意味があるということだよね」

「そうだな」

「この中の装置で、良治のように、僕と父さんを金星へ送りたいのか、それとも、この秘密の装置がここにあることを知らせたかったのか」

「金星へ連れて行きたいのなら、彼らのテクノロジーで直ぐに行かれると思うが・・」

「あの、空飛ぶ乗り物で?」

「そうさ。春利をこの辺りへ案内したと言っていた、スペースクラフトで」

「じゃあ、父さんに伝えてきたのはやっぱりあのお方、マリア・・。あのときは、今と縄文時代と小学生のときとを行き来したので、僕の意識は普通ではなくなって、判断がとても曖昧になっていたから。でも、今日ここへ来た時、何か見覚えがあるような気がした」

「じゃあ、その時、春利はこの中も見ていたかもしれないな」

「それが、思い出せないけれど、中を見れば思い出すかもしれない」

二人は円柱形の反対側へ回って行った。

「これ、今まで見たこともない物質で出来ているようだけど、父さんには、この装置の開け方を伝えてきた?」

「いや」

「僕の、夢か別の空間かは分からないけれど、カナさんはこの場所への行き方や入り方は伝えて来たけれど、この装置の中へどうやって入るかは伝えて来なかったし、あのお方の乗り物から降りてここへ来たとは思えない気がする」

春利は荘太と並び、直径2メートル近くはあると思われるグレーの円柱形の前に立った。天井まで続いているそれは、太い柱のように見えなくもないが、地球上では見たこともない物質でつくられていることが、それ全体がマシンであることを直感させた。

To Be Continued

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2016/02/18

八ヶ岳山麓

下り切ったところには壁が立ちはだかっていた。春利は向こうに部屋があるのでは、と思われる壁をノックしてみた。コンクリートというより軽い合金のような材質を感じた。ここも、と春利は右手を開いて顔の前のそこへあててみた。

と、眼前の壁がスッと消え、ちょうど人が通れるくらいの入口ができた。部屋の中は程よいくらいの明るさで見覚えがあるような光景が春利の前に広がっていた。

「部屋の中に円柱形のような装置や機械が並んでいて、コイルみたいなものもあるけど、具体的にどのようなことをするのかは分からないわ」春利は以前ミナが言ったことを思い出した。

谷川良治が来たのはここだったのか。目の前の円柱形のものが時空装置かもしれない。良治は、伯父の渋江真佐雄氏からその操作方法を教わったのか、あるいは中へ入っていろいろ触っているうちに突然作動したのか。

春利は入口に立ったまましばらく装置の方を見ていたが、全体を見て回ろうと部屋の中へ踏み込んだ。

と、装置の向こうで何かが動く音がして人の気配がした。

「だ、誰かいるんですか?」

「私だよ」声と同時に装置の陰から突然人が現れた。

「と、父さん、どうしてここに?」

「春利こそ、どうしてここへ?」

二人はしばらく見詰め合っていた。

「私は、家から近い桜並木を散歩していた時、上空に光る物体が現れて、ここを案内してきたんだよ。私の生家から歩いて30分とかからない所に、こうした家があるなんて・・」

「僕は、夜中に寝ていた時、夢か別の空間か分からないけれど、小学校で同じクラスだったことがある谷川良治という人といとこの、以前父さんに話したことがあるカナという今はフィンランドへ留学しているはずの人からの知らせで・・」

「ここへ来ることになった」

「そう」

「それは、春利。偶然なのか、すべて分かっている存在が・・」

「偶然にしてはあまりにも」

「うん。今も、上空で見ているかもしれないな」

「それで、父さんはこの装置が何かを知っているの?」

To Be Continued

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2016/02/14

八ヶ岳山麓

金星を示す円形の庭石は80センチはあるだろうかと春利は思った。

その石を最初に左にカチッと音がするまで回し、音が確認できたら今度は右に音がするまで回す。そう出来なければそれは金星ではない。カナの言った言葉が浮かぶ。

春利は大きな丸い石の側に腰を下ろした。石の側に靴の足跡みたいなものが残っているようにも見えるが錯覚だろうか。門扉に鍵はかかっていなかったら誰かが勝手に入ってくることも考えられる。とにかく回してみよう。

春利は、栗色の丸い石にそっと両手をかけた。厚さは3センチ位だろうか。手に伝わって来た感触は、見た目とは違い石の冷たさではなく人工的な何かを感じた。

円形の両サイドを握り、ゆっくりと左へ回した。思ったよりスムーズに回った。カチッと音がした。今度は右へ回した。左と同じくらい回したが、音がしない。もしや間違えたかと不安になったが、さらに回してみた。180度くらい行った所でカチッと音がした。春利の心臓は高鳴っていた。

大きく息を吐き出した。確認できたら石の中央に乗り、しゃがんで膝を抱えるようにする。カナの言葉がよみがえる。この石は不思議と周辺の土の色と同じだ。

春利は静かに石の中央に乗りしゃがんで膝を抱えた。すると直ぐに石の外側から数センチ幅の周囲を残して石は下降し始めた。5秒としない間に春利は家の中の通路のような場所に着いた。

春利が降りると、石はスッと上へ移動して行った。辺りは意外に明るかった。春利はそこから広がっている空間の方へと歩いて行った。その部屋のような空間の壁には電気のスイッチは見当たらなかったが、とても明るく、壁に沿って木製のカウンターやテーブルがあったが、実験設備のようなものは何もなかった。

谷川良治が来た時も、こんな感じだったのか。その後改造されたのかもしれないが、何か機械装置のような物は残っていないだろうか。春利は突き当りの壁まで歩いて行った。カナが何か言っていなかったかと夢の中の記憶をたどった。これ以外に部屋はないのだろうか。無意識に壁際まで歩いて行ったが、その意味を考えた。カベ・・。そうだ、壁にさわる。降りた所から部屋を見てちょうど反対側の壁だと言っていた。

春利は眼前の壁を見た。一面ミルキーホワイトで目印らしきものは何も見当たらなかった。降りた位置から部屋を見てまっすぐ突き当りと言えば。振り返って確認した春利は眼の高さの壁に右手を当てた。

と、次の瞬間、春利の足元に下へ続く階段が現れた。魔法のようだと思いつつ春利は階段を降りて行った。

To Be Continued

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2016/02/11

八ヶ岳山麓

その時だった。前方の県道から少し入った辺りに松の古木が見えた。草むらには人の背丈ほどの垣根のような低木がところどころに生えている。夢の中の景色と眼前の風景が春利の頭の中で一致した。

一面の草むらのように見えたが、側まで行って見ると幅1メートルくらいの道がつづいていた。ここをしばらく行った所にあの家はあった。夢の中でカナの笑顔が案内してくれた映像が浮かんできた。

足は半ば無意識に進んでいて、いつの間にか常緑樹の低木が道の両側に並んでいた。道は大きくカーブして小さな林の中へ続いて見えたが、周囲に人家はなかった。それまでも人家はまばらだったので、そうした所なんだろうと春利は思った。

と、木立の向こうに見覚えのある建物が現れた。

「間違いない。あの家だ」春利は歩を進めながら内心で呟いた。その辺りには見かけない西欧風というかコンクリートの外観で、屋根の部分は半球形のような形状だった。

春利は鉄格子の門扉前に立った。インターホンも郵便受もなかった。門扉に鍵もかかっていなかった。誰か住んでいるのだろうか? 静かに扉を開けて中へ入った。ちょっと見では目立たなかったが、そこには周辺の庭土と同化して見える栗色で平べったい大小の庭石がつづいていた。建物の周りに点々と並ぶ平べったくて丸い大小の庭石の上を歩いて行った時、カナの言葉がよみがえってきた。

「その建物には一般の家にあるような建物の中へ入るドアは付いていないのよ」

電気、ガス、水道も設備されていない・・。

「金星の庭石をさがして・・」夢の中にしては不思議なほど鮮明だった言葉が思い出される。家の周りに10個の丸い庭石が並んでいる。一番大きいのが木星で、金星をさがすんだった。

春利は建物の周囲を回ってみることにした。黒い金属製の柵の内側にはヒイラギモクセイの生垣が家を取り囲むように続く。コンクリートの建物には地面から2メートルほどの位置にステンドグラスの窓が複数ある。グレイの建物と生垣との間は2メートル余りある。一定の間隔を置いて並んでいる大小の石は、どれも栗色で周辺の庭土と同化しているが、意外と大きいことに驚いた。

春利はぐるりと一回りして、それらの大きさと順番からそれが金星ではないかと思う石の側に立った。

To Be Continued

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2016/02/06

八ヶ岳山麓

ミナが彼らの乗り物に吸い上げられ、プアビさんという高貴な存在から「架け橋」の依頼を受けたという話を聞いてから1か月が過ぎた。

春利の塾は補講をしない日曜日は休みにしていたが、ふだん来ている中学受験の生徒たちは大手の塾に模擬試験に行っていた。頭の隅で生徒の事が気にかかっていたが、その日春利は中央本線の車内にいた。

夢で信濃境駅が現れた。目覚めて、父の生家に比較的近いところみたいだという漠然とした捉え方だった。長野県諏訪郡にあり、JR東日本の中央本線駅であると同時に、東京方面からだと、山梨県を抜け、長野県に入って最初の駅で あることを今回改めて知った。

信濃境駅で降りた時、11時前だった。陽射しは雲で遮られていた。春利はジャンパーのチャックを喉元まで引き上げた。10月も半ば近くなると横浜よりだいぶ気温が低いんだと内心で呟いた。

目的の家は、夢にあらわれたカナの案内と、以前ミナのリモートビューイングを聞いたことが手掛かりだった。一般には、そうしたことを手掛かりに出かける人はいないかもしれないと春利は思ったが、真偽を確かめてみようと思った。

目指す家は、カナの父である渋江真佐雄の別荘だった。ネットでそれらしき場所を検索して手書きの簡単な地図を持って来た。迷わずに行かれれば徒歩で約15分位だろうか。

眼前に県道195号線と書かれた大きな白文字が見える。枝分かれした方へ行けば、井戸尻考古館や井戸尻遺跡へと向かうことがメモ書きで確認できる。春利が向かう家はそれらから1500mほど離れている辺りで、県道から数百メートル入った所あたりだろうか。夢に現れたカナが示したイメージを頼りに春利は歩を進めた。

県道195号線をどこまでも行くと20号線、さらに釜無川にぶつかるが、記憶の中の脇道はどれだろうと歩きながら春利は辺りを見回した。

遠くの方に八ヶ岳山麓の稜線が見え、県道から脇道へ入る辺りに松の古木があった。人家はまばらだったし辺りは草むらで平地のようだったが、途中から針葉樹の林に被われ、その向こうに突然あの洋館風の建物が現れた。春利は目が覚めてからも鮮やかに残っていた夢の記憶をたどった。

カナが現れたあれは単なる夢だったのか? それにしては鮮明過ぎる。別な空間、という思いがよぎる。しかし、以前早乙女さんがふれた所もこうした感じだったのでは・・。

不安な思いで県道を進むと、突然、一重まぶたで目元が涼しいあのカナの笑顔が浮かんだ。左側の口元にエクボが出来ている。

To Be Continued

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