2015/11/23

夢と別な空間

ミナが時計に目をやった。

「ここにずっといたい気もするけど」春利も腕時計を見て言った。ミナは一瞬上空を見上げたが、春利の方へ視線を戻した。

「僕が良く行く安いお店でもいいかなあ」午後1時半になるところだった。

「私も、日頃そんなに高級なものを食べてはいないけど。お腹空いたからどこでもお付き合いするわ」

「今回、心の整理というか、混乱していたから、助けてもらって感謝しています。それにしても、今も、あのお方は僕らのことを見ているのだろうか」

「それはないような気がする」

「しかし、これまで知らなかった世界がどんどん分かってきて、これからどうなっていくんだろう」

「そうね」ミナが先に立ち上がった。

「芝生を横切った方が早いけど、蚊に刺されるといけないから」春利はすぐ後ろの舗装された広い歩道に向かった。

「沢さんは思い出したくないかもしれないけれど、一つだけ訊いても良い?」

「どんなこと・・」

「沢さんが乗った乗り物のことだけど」

「思い出せる範囲なら」

「乗り物の内部の様子、憶えている? 無理に思い出そうとしなくていいのよ」

「どんなこと?」

「機内にコイルのような物があったかどうか」

「公園から上空へあがっていって乗った時も、その後に乗った乗り物にも、そうしたものの記憶は残っていないですね」

「ありがとう。ということは、私がカナさんと乗った乗り物とは違うかもしれないわね」

「機内では、アンドロイドかもしれないけれど、前の席にいた僕より小さなETのような存在やあの方やETが乗っていた後の機内でも、コイルはまったく記憶にないですね」

「ありがとう。それ以上無理に思い出そうとしなくていいわ」春利は小さく頷き、目の前の信号を先にわたって行った。

「沢さん!」渡り終えた時、突然ミナの声がした。振り返った春利の左手の甲から掌へと柔らかく暖かい指先が滑り込んできた。

To Be Continued

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2015/11/15

夢と別な空間

「縄文時代に行っていたのは地球時間でも長くはないと思う」

「じゃあ、僕は昼間にここへ戻されて、芝生で寝ていた」

「ええ。沢さんの記憶に残っているかどうか分からないけれど、カナさんのお父様の渋江さんの実験室かもしれない所の上空にも行っている。それも、沢さんが小学校低学年だった頃の・・」

「そんな。全然憶えていない。ということは、僕は記憶を消された?」

「いえ。たぶん、タイムトラベルの変化に、沢さんがついていかれなくなって、認識が麻痺してしまったのかもしれない」

「それで、ここに戻されて、記憶を失くして死んだようになっていた」

「そんな感じかもしれないわ」

「それにしては、蚊にも刺されないで、よくあんなところに寝ていたもんだ」

「晴れていたけれど、沢さんがいる上空だけは大きな黒雲が見えたから、眩しくはかったと思うし、金曜日で、その時間ここを訪れる人も少なかったと思うけど」

「僕がいた上空だけに黒雲が?」

「ええ。きっと、あのお方が・・」

「あのお方が、つくった・・」

「蚊に刺されなかったのも、乗り物から出された物質のせいかもしれない」

「それって放射能?」

「かもしれないけれど、検査してみないと分からないわ」

「それにしても、あのお方は、僕に、縄文時代の八ヶ岳山麓や小学生だったころ谷川良治が行った場所を教えようとした」

「そうね。そういうことになると思うわ」

「タイムトラベル。突然だったから・・。今回僕は、早乙女さんに救われたな」

「体験した記憶は、時間がたてば思い出すかもしれないわね」

「しかし、ちょっと、怖いな」

To Be Continued

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2015/11/11

夢と別な空間

二人は根元から人の背丈ほどの所まで裸状態になっている古木の側のベンチに並んで座った。後ろの舗装された広い歩道を柴犬を連れたお爺さんがゆっくりと歩いていく。

「僕が、朝早くから夕方まで、どんなだったか、みてもらいたいんです」

ミナは小さく頷き、胸の前で合掌すると静かに眼を閉じた。

「僕は、どこにいたんだろう?」ミナが静かに眼を開け、上空を見上げるようにした後に春利の呟くような声がした。

「沢さんは、あの乗り物で、八ヶ岳山麓の上空を大きく弧を描くように飛び回った後、すっと別の空間へ消えたわ」

「それからあとは・・」

ミナはふたたび眼を閉じた。

「それは、別の空間のある場所からずっと過去の時代へ・・。そう。縄文時代の八ヶ岳山麓一帯・・」

「縄文時代へタイムトラベルした・・」春利は眼をつむったままのミナの口元へ視線を向けていた。

「そう。あの方がマリアさまなのね。沢さんがそのお方の側にいる。現在とはずいぶん違う風景のようだけれど、とても穏やかで、辺りに人の姿が見える。なんというか、似た世界で、とっても懐かしいような気持ちになるわ」ミナは、依然として眼を閉じたままで、口元だけが静かに動き、とても落ち着いた口調で語り続ける。

「あっ、上空の乗り物の所へ戻った・・。あの方と沢さんは、2階に隣り合って座っている。1階が操縦席のようで、私が会ったことがあるような姿形のひとが見える」

「そのひとは、小さい?」

「ええ」

「アンドロイド・・」

「くわしいことは分からないけれど、私たちよりもしっかりとした意思を持っているようだわ」

「それで、僕はここへ戻って来た?」

「・・・」ミナの眼は閉じられたまま沈黙がつづいた。

「沢さん。あなたがこの公園で気がついた時、夕方というか夜のようで真っ暗だった?」

「ええ、夕方でも辺りは真っ暗だった。まだ8月31日だったのに」

「ということは、沢さんは、この公園のあの辺りの芝生で、ずっと寝ていたことになるわ」

「そ、それはどういう意味?」

To Be Continued

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2015/11/09

夢と別な空間

春利はミナを迎えに地下鉄岸根公園駅の出口に立っていた。ミナとは昼食について話さなかったが、近場に複数あるのでどうにでもなると思って食べないで来た。

時計の針が12時時近くになった時、足音とざわめきがして降車客が階段を上がって来た。やがてミナの姿を認めて春利はほっとした。

「僕が座っていたベンチ辺りが良いですね」

「そうね」

「あの池の下が、いま早乙女さんが降りた所」春利は鴨が群れを成している左手の池を指さした。

「あっ、そうなんだ。沢さん、意識もはっきりしているわね」

「いや、早乙女さんと話せると思うと気持ちが元に戻ったんですね」

二人は舗装された坂道をゆっくりと上って行った。

「緑が多いこともあって、まだ蚊がいるから気をつけて」

「長袖を着て来てよかったわ」

「夏の終わり頃って、蚊も必死なんでしょうね」

「ええ。生きるっていうことは、どの生き物にとっても大変ね」

舗装された歩道の両側には背の高い樹木がどこまでも続いている。

「ここは、大きな公園なのね」

「ええ。戦後は米軍に接収されていたけれど、その後25年以上たって全体が解除され、買収により取得した民有地とで、こんなに広い公園になったと聞いています。芝生広場や運動広場と、向こうには軟式野球場、それに先ほどの池の向こうの道路に近い辺りには県立武道館もあるし」

「沢さんは小さい頃はここには?」

「母といくどか来たことがあります」

「じゃあ、思い出の場所でもあるのね」

「ああ、あそこ。あのベンチに腰掛けて・・」春利はちょっとした林になっている樹木の間から見えるベンチを指さして言った。

To Be Continued


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2015/11/02

夢と別な空間

家に帰りついた春利はテーブルの上に置かれているスマホを手に取った。やはり置いて行ったんだと内心で呟き、日時の確認を急いだ。

同じ日の朝と夕であることが分かり少し気持ちが落ち着いたが、およそ15時間がどのように経過したのか気にかかった。一番連絡を取りたいと思ったのはミナだった。その時間どこにいるか分からなかったのでパソコンからの方が速く入力できると思いボタンを押した。文字入力の指先が震え、思うように進まないので、連絡したいことがあるから返事を欲しい、と打って送信した。

ミナからメールが入ったのは10時前だった。久しぶりに高校のときの友達と駅でばったり出会い、夕食をしながらその後のあれこれに花が咲いたという。後20分もすれば家に着くから、電話してもらっても構わない、と。

ミナからのメールを読み、少し落ち着いた春利は、向かいの棟から漏れる明かりに目をやり、カーテンを閉めることを忘れているのに気付いた。急に空腹を覚えた。一日中食事をしていない・・。冷蔵庫から牛乳を出して飲んだ。ミナと話してからと、風呂は後回しにして、スマホを手にした。

「ええ、少し前に着いたところ。大丈夫よ。・・初めての体験をしたのね」ミナの声が少し笑っていいるようにも思われる。

「きょう、僕が経験したことが分かるんですか?」

「あの乗り物に乗ったのね」

「そう。それで・・」

「ええ、見えるわ。どこから?」

「家から近い所にある公園へ呼ばれて・・」

「分かったわ。それじゃあ、明日と言いたいけれど、休日は人出が多いでしょう?」

「たぶん」

「それじゃあ、あさっての昼頃どう?」

「よかった。その日まで塾が休みだから・・」

通話終了ボタンをタップし、春利はふーっと息を吐き出した。ミナが公園に来てくれるという。

To Be Continued

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