2015/02/25

世界の向こう-面会-

「カナさん」ミナはドアの向こうから看護師に付き添われて現れた彼女を見て言った。

「私は時間までこちらにいますから、気にしないで話してね」看護師は少し離れた椅子を見て言った。

ミナは看護師に頭を下げ、カナに向かいのソファに掛けるよう手で合図した。

「お母さんから連絡いただいて、初めて知ったものだから」カナは少し頭を下げたようだったが、表情は硬かった。

「どんなことでもいいから、遠慮しないで言って。無理しない範囲で・・」ミナはカナの目を見守る表情で静かに言った。

「わたし、幻聴や幻覚はないんです。夜中に目覚めて、夢で見ていたのか、頭に残っていた世界が浮かび上がって来て、それは、実在する世界だと思われて、そこにもう一人の私がいて、同じことを思っている。何も言えなくなって、お互いに顔を見合わせたままで・・」

ミナは深く頷いた。

「わたし、それから、言葉にだして話すことが出来なくなったんです」

「カナさん、無理に話さなくてもいいわ」ミナはカナの目に光るものがあふれているのを認めた。

「私ね、私もその世界があるかもしれないとリモートビューイングしてみたことがあるんだけど、何かが邪魔して、在るのかないのか、はっきりしないのよ。なぜだか分からないけれど」

「早乙女先生にも見えない・・」

「ええ。カナさん。それは、すぐに結論を出さなくてもいいと思うわ。私ね。人には見えない世界が、この宇宙にはいっぱい存在しているんじゃないかと思っているわ。だから、もう一人の自分がいてもおかしくないわ」

「先生・・」カナは少し頬に赤みを浮かべてミナの目を見た。

To Be Continued

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2015/02/18

世界の向こう-精神科病棟-

ミナは、看護師に案内されて談話室に入った。シンプルな長めのソファと丸いテーブルがあった。

「まもなく見えると思いますので、そちらに掛けてお待ちください」

看護師が出て行ってすぐに、反対側のドアの向こうからキーが差し込まれる音がした。ミナよりも年上と思われる四角張った顔の男性医師が白衣姿で現れた。頭に白いものが見えていた。

「お待たせしました。重富です」白衣の前に両手をそろえ、丁寧に頭を下げて反対側のソファに腰を下ろした。

「お忙しいところすみません。渋江さんのお母様から連絡を受けるまで、入院しているとは知りませんでした。学期の授業が終わり、単位を取り終えたので、4月からの私の授業には出ていませんので、教室で会うことはないので、こちらへ入院していると聞き驚きました。それで、本人に会う前に、どんな様子か伺っておきたいと思いまして」

「大学で英語を教えてらっしゃるんですね。渋江さんは、入院当初はまったく口を利かなかったのですが、2週間ほどして、本人の口から、早乙女先生に会いたいと」

「どんな症状なんでしょうか?」

「多くは話さないんですが、何かを体験されたようですね」

「先生のご経験から、妄想とか幻聴とか・・」

「う~ん。実のところよく分からないんです。ただ、口を利かなくなり、とても不安そうな様子を見て、お母さんがそれとなく話したところから、一度、専門医に相談してみたらと日赤の方へ行かれ、こちらへしばらく入院して様子を見たらと。本人も同意して入院したようです。ですから、こちらでは、普通に食事され、娯楽室で、卓球とかダンスとかも出来ますし。渋江さんの場合は、安定剤を飲んでいますが、当初眠れないというので注射もしていましたが、現在は内服薬のみです」

「そうなんですか」

「お母さんがいうには、地球が二つあると言ったというのです」

「それって、妄想だと先生は判断されてますか?」

「一般的には、そういうことになるでしょうかね。しかし、一般人でも、月が二つあるとか、そういうことを言う人もいますが、そのことにより、本人が日常生活をしていかれなくなるのでなければ、自由に空想したりしても、別に異常ということにはなりませんから。すみません。そろそろ病棟に戻らないと。本人を呼んできますから」

To Be Continued

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2015/02/16

世界の向こう-精神科病棟-

桜が散り、新学期の授業が始まって3週間が過ぎた頃、ミナは、聞きなれない女性の声の主から電話を受けた。苗字を聞き、あれっと思いながら話に耳を傾けるうちに、それが誰であるか納得がいった。もう、3週間入院しているという。

今度の日曜日にと思い、面会は許されるか訊いてみた。落ち着いてきているのと、担当医の先生から、早乙女先生に会いたいと本人が言っているので、どうかとは思いましたが電話してみたという。

気にかかってはいたが、英語の単位を取リ終えたから、新学期が始まっても教室で彼女の顔を見かけることはなかった。

幸い、入院しているという病院は、ミナが普段利用している市営地下鉄線の駅から歩いて行かれる距離にあった。最初日赤に行き、そこは外来診療しかやっていないということで、紹介状を書いてもらい、大学病院に入院したという。

面会は、午後7時まで出来ると聞き、ミナは午後1時過ぎに家を出て地下鉄に乗った。考え事をする間もなく下車駅に着いた。歩きながらエイリアンの乗り物で火星の上空に行ったことを思い出した。カナは終始不安におびえていた。あれから何が起こったのだろう。カナのいる病棟がミナの頭に浮かんできた。

20分分ほど歩くと、大学病院の箱のような白い建物がくっきりと浮かび上がって見えた。

広いフロアの受付で、ミナは入院患者の名と面会に来た自らの立場を告げた。

「今日は、日曜ですから、担当の先生はいらっしゃらないですよね」病棟への行き方を聞いた後、ミナは訊いてみた。

パソコンの画面を見てから受話器を手に確認してくれている。

「今日は運よく、重富先生はお当番で、いらっしゃるそうです」

「ちょっとだけお話をすることは可能でしょうか」受付の年配女性は、頷いてからふたたび受話器の相手と話している。

「少しだったら時間が取れるから大丈夫ということです。面会は原則として談話室でしていただくことになっていますので、病棟の受付へ行かれましたら、その旨おっしゃってください。先生が談話室へ来てくださると思いますから」

To Be Continued

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2015/02/01

世界の向こう ー桜の下でー

春利は父の口元と目に注視して聞いていた。

「父さん、そんなことがあったんだ」

「幻覚とかそんなんではないと思うんだ」

「僕も、そう思う。もしかして、来未は・・」

「もしかしてって?」

「変に思われるかもしれないけど」

「いや、親子なんだから、何を聞いても・・」

「あの、エイリアンが、別の世界に行った来未に」

「シャンハイにいた春利に意思を伝えてきたという、エイリアンのことかい?」

「そう。あのエイリアンが、父さんのいる場所を教えたのかもしれない」

「それも、不思議な話だね。津波で亡くなったと思われる人を連れて来るなんて」

「僕には、早乙女さんという僕より年上の女性で大学の講師をしている友達がいて、その人が言うには、震災後、来未と友達の春海さんという、やはり津波に呑みこまれたと思われる女性に、その、別の世界で会ったというんだ」

「そのこととエイリアンとは」

「そう。そのことを早乙女さんに知らせたり手引きしたりしたのは、同じエイリアンではないかと」

「それは、ちょっと信じられないような話だが、別の空間があり、彼らがそこと我われの暮らす世界を自由に行き来できる存在だとしたら」

「父さんも、そういうことを考えられるんだ」

「うん、別の空間というか次元というか、我われ一般人が出来ないことを彼らは出来るのかもしれないと」

「父さん!」
春利の背中を不思議な感動が走り抜けた。

To Be Continued

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