2012/08/29

上海へ

春利の方から電話を切ったのだが、炊飯器のスイッチを入れてまもなく着メロが鳴った。

来未からのメールだった。

「わたしたち、友達でいた方が良いのかな。結婚は無理だっていうことかな」

春利はメールで返す方が気持ちが楽だった。

「少し時間をくれないか。これで僕らの人生が終わるわけではないんだから。いや、来未ちゃんにほかに好きな人が現れて、来未ちゃんが、その人と結婚したいっていうのなら、そうした方が良いと思うけれど、もう少ししても二人の気持ちが変わらないのなら、それは僕らが結婚してこれからの人生をやっていけば良いと・・」

「今の段階で、婚約はできないっていうこと?」

「ごめん、はっきり言って、自信がないんだ。今の会社でこのままやって行かれるかどうか。それで、もう少し時間をみて、上海に行って、軌道にのり、生活が成り立ちそうなら、結婚をしたいと思う」

「分かったわ、わたし、沢さんのほかに好きな人がいるわけではないから、それまで待つわ」

「ありがとう、僕はクリスチャンの洗礼を受けたわけではないけど、神様がいるのなら、きっと僕らにふさわしい答えを出してくれると思いたいんだ」

来未はメールを読みながら、春利は両親のようになることを嫌っているのだという思いが脳裏に浮かび、神様が二人をしっかりと結んでほしいと願った。


To Be Continued

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2012/08/27

上海へ

「帰るのを見かけたような気がしたけど、勘違いかな?」

「ああ、今日、沙希が仕事始めにちょっとと言って定時で出たんだけど、あいにくお店が今日まで休みだったので、ほかには寄らないで帰ってきたわ」

「そうだったんだ、じゃあ見間違いか。それで、前に話していたことが現実になったので、話しておいた方がと思ってね」

「もしかして転勤?」

「そう、2月から上海へ行くようになると思う。今日、課長に呼ばれて部長同席で、その話があったんだ」

「じゃあ、もう本決まりなの?」

「上司から言われたら、受けた方が良いと思ってね。この携帯、そばに誰かいるの?」

「いえ、家に着いたところよ。じゃあ、私たちどうなるの?」

「上海はそんなに遠くないから・・」春利は曖昧な言い方をしている自らが気まずかった。

「私たち、これで終わりじゃないでしょう?」

まだ間があるから会って話そうと春利は言った。


To Be Continued

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2012/08/14

上海へ

春利が退社のタイムカードを押しに行った時、ドアの向こうにちらっと来未の後ろ姿を見たような気がした。タイミングが良ければ帰りがてら話せるかと思った。

しかし、駅に向かう通りには来未の姿が見当たらなかった。同僚とどこか寄り道かそれとも来未ではなかったのかな、と春利は思った。

携帯で連絡するかメールをしようかと迷っているうちに名古屋駅に着いていた。明日は土曜だから来未の賃貸マンションがあるあおなみ線に、とも思ったが、なんだか調子が良すぎるような気がして、アパートへ向かう地下鉄に足が向いていた。

乗る前に電話しようと思ったが、同僚といっしょかもしれないからとためらった。

星ヶ丘で降りると、家に着いてからと歩き出していた。

アパートに着いて着替えると、とうとう上海か、と呟き、ミニコンポのCDボタンを押した。
浜田省吾の「もう一つの土曜日」が流れた。いくどか聴いたことがあったが、春利が買ったものでないことは確かだった。

ミニコンポは、春利が高校に入学した時、叔母のとし子がプレゼントしてくれたものだった。その頃だったろうか、尾崎豊と浜田省吾のCDが棚にあるようになった。母・さなえかかもしれないが、それがそのまま横浜から名古屋のアパートにに運ばれていたのだ。

「もう一つの土曜日」の歌詞が、いつになく春利の心に絡みつき染み入った。
春利は携帯を手に来未へつながるボタンを押した。

「あっ、はい」3回目のコールで返事があった。


To Be Continued

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