2012/07/29

上海へ

来未と食事した翌日、春利は出社するとすぐ課長から声がかかった。その日は営業のミーティングには出ないで良いと言われ、別室に案内された。

そこにはすでに部長がいた。聞いていたかもしれないが、2月の初めになると思うが、君に上海に行ってもらおうと思うが受けてもらえるか、と言われた。

春利には断る理由がなかった。

「沢君は電気の方も詳しいし、営業のセンスがあるから適任だと思うんだ」隣りの椅子に掛けていた課長がサポートした。

二つ返事の春利の表情を確認してから、部長は課長に目配せした。
「それでは、上海支店の様子と今後の予定については課長の方から案内があるから、何か困ったことがあれば課長と相談してやってくれ」

部長が席を立った後、課長は上海支店の近況にふれた。
上海には、日本人の支店長のほか日本語と英語が堪能な中国人女性がいるが、そのほかの3人は現地の中国人だという。

「私は、中国語は出来ないんですが、構わないんでしょうか?」
課長がときどき上海に行っていること、以前ホンコン支店に1年、シンセンに半年いたことがあることを春利は聞いていた。

「僕は、中国語を大学でやっていたので行かされたんだが、中国の会社や中国人を相手にビジネスをするのには、わが社の製品や技術的なことにもうちょっと詳しい人間が適任なんだ。それで、両方必要なんだが、中国語、北京語の問題は、現地に行ってから、営業時間とは別に、語学が堪能なひとに学習してもらうことになる」

「それは現地の語学学校に通うということですか?」

「いや、上海支店内でするから。それに、必要な研修になるから、費用は会社持ちだから」

「じゃあ、一所懸命やらなくては」

「まあね。君なら適任だということになったんだ」

春利は、口をきりっと結んで頭を下げた。


To Be Continued

Sponsored Links
2012/07/03

夢か啓示

「パソコン画面にマリアさまが・・。沢さんは、お父さんがキリスト教だとか言っていなかった?」

「うん、神学部を出たって聞いたけど、くわしいことは分からない」

「両親が離婚したのは、5歳のとき?」

「父は、僕が5歳になったばかりのころ出て行ったって、叔母さんから聞いたんだけど、神学部を出ているってことは、高校生になって母と進路の話をしたときに聞いたんだ。記憶ではね」

「記憶ではって?」

「それまでにも聞いたかもしれないけど、記憶に残っていないってことさ」

「じゃあ、幼いときに、お父さんからキリスト教の話を、絵本とかで読んでもらったかもしれないわね」

「かもしれない」

「私は、幼稚園がカトリックだったから、マリアさまのこと、分かるような気がするわ」

「そうだったんだ。会津若松で?」

「そう、母が、あそこが良いって言って。家からそんなに遠くはなかったし」

「来未ちゃんは、その頃の記憶ってあるの?」

「ええ、イエス様を抱くマリアさまの立像もあったし、そういう雰囲気の園だったから、特に違和感みたいなものはなかった気がする」

「そうなんだ。僕は保育園で、そういうのって全然なかったから」

「でも、お父さんがそういう学校を出ているってことは、沢さんになんの影響も与えなかったってことはないと思うわ」

春利はなぜか熱いものが胸の奥から突き上げてくるのを感じたが、来未に気づかれないようにと水の入ったコップを口に運んだ。


To Be Continued

Sponsored Links
2012/07/01

夢か啓示

「沢さん、休み中はずっと星ヶ丘に?」
会社が始まった6日の帰り、春利と来未は、あおなみ線の競馬場前で待ち合わせ、年末に会ったカフェに入った。

「新横浜へちょっと気分転換に行ったけどね」

「誰かと会ったの?」

「いや、一人で行ってきて誰とも」

「沢さんの場合、家族が・・」

春利は父のことに触れようと思ったが、言葉が出てこなかった。

「来未ちゃんの方はどうだった?」

「そうね、一家団欒てとこかな。姉とも久しぶりに話せたし」

「元気だった?」3つ年上の梨花は4年前に結婚したが離婚したと言っていたのを思い出した。

「ええ、伯父のやっている会社で経理してるけど、それなりにやってるみたいだから」

「来未ちゃんは、奇跡とかって信じる?」

「奇跡って、沢さん、何かあったの?」

「奇跡というか、ふだん信じられないようなことが目の前で起こった、というようなことだけどね」

「そういう意味ね。他の人にとってはなんでもないことに思われても、私にとっては、てことなら、すぐは言えないけどあったような気がするわ」

「もしかしたら夢かもしれないけど、でもちゃんと目は覚めていたと思うし・・」

「やっぱり、何かあったのね」

その時、2人がオーダーしたカフェおすすめのアジア風ごはんが運ばれてきた。


To Be Continued

Sponsored Links