2012/04/26

日産スタジアム

男は、金網で囲まれた円柱のポールが並び立つ広場に着いた。10メートル近い高さがあるだろうか。貼紙から循環形の噴水らしいが、水は止まっていた。広場の奥にはこれも大きな円柱型のスタジアムショップの建物があった。

目の前の石段を上って行くと、広場の左手に円錐屋根のチケット売り場があるのに気づく。窓が閉まっているので見落としていたのだ。男女のトイレ表示も目に入る。

石段を上がりきると、外周路へとつづく広場が現れ、そこにも金属で被われた太い円柱が並んでいて、見上げると五輪の輪のように丸くくりぬかれたシートが柱の間を被っている。目を移すと頭上には巨大な円形の屋根が立ちはだかっている。東ゲートの表示があり、やや高い所に、「NISSAN STADIAM」の文字が目に入る。

外周路に視線を移すと、あの時もあっただろうかと思われる物体が横たわっている。
金属製のそれに近寄ってみると、日韓ワールドカップのモニュメントだと分かる。

FIFA WORLD CUP
KOREA JAPAN

FINAL
30th June 2002 at YOKOHAMA

 Brazil 2-0 Germany

左側にブラジル・カフー選手の足形、右側にドイツのオリバー・カーン選手の手形が掘り込まれている。

そこを後にして、男は左回りに外周路を歩き始めた。北ゲートが見える辺りまで行った時、あの時に通ったのはそこではないように思える。

と、向こうから50歳くらいの男が早足でやってくるのが見えた。年末年始の休みにウォーキングしているのだろう。

やがて西ゲートの前まで行った。石段の下に東ゲートにあったのと同様のトイレ付のチケット売り場の建物が見える。

男は石段に腰を下ろした。雲間から陽射しが降りてきた。午後3時前だった。男は目を閉じた。


To Be Continued

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2012/04/24

新横浜駅前公園

ニット帽の男は金網の張られた新横浜少年野球場を左手に眺めながら歩いていたが、手前にトイレがあることに気づいてそちらへ向かった。

用を足し終わるとスタジアムへ行くのにはまっすぐ行くよりも左折してもう一つ向こうの通りを行った方が近いことに気づいた。誰もいない野球場の金網に沿って一つ向こうの通りまで歩いた。

12月の31日とあって隣りの車道を通る車の数もまばらだった。

ニット帽の男は鳥山川を渡る「浜鳥橋」という文字に目を向け、次に橋の前方の信号が青に変わったのが見えたので自分の吐く白い息に気づきながら歩調を速めた。

信号を渡り舗装された広いなだらかな坂をゆっくりと歩いていた。右手には「横浜労災病院」の大きな建物があり、左手には総合リハビリテーションセンターや総合保健医療センターの建物があるのだということが壁面の表示から分かった。

視線の前方左に巨大なスタジアムの円形の屋根がそびえたっている。

あのとき、野球だったかサッカーだったか何を見に来たのか覚えていなかったが、とても広いグラウンドが下の方にあり、大勢の人がいたこと、そして横にいたのは父だったことが漠然と記憶の奥の方にある。

このなだらかな坂を歩いて行ったとすれば東ゲートが近いのだが、どのゲートから出入りしたかもまったく思い出せない。

あのとき、どんなことを父と話したのだろう。どんなことでもいいから記憶がたどれたらと思うのだが、何一つ浮かんでは来なかった。


To Be Continued

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2012/04/06

新横浜駅前公園

女の子は猫の頭を撫でつづけようとするが、猫はスルッと体をかわす。逃げて行ってしまうかと思えばそうではなくその辺りを歩き回る。

逃げ去らないのは餌付けされているからかもしれないが、ある時期まで大事に飼われていた猫に違いないと桑田は思う。

「よく肥えていて人懐こい猫ですね」

「お腹が膨れているから子持ちかなと思ったが、ここにいる猫は、雄は去勢手術をしているし雌は不妊手術をしてあるらしいから」

心ある人が身銭を切ってやっているということを桑田も聞いたことがあった。市の方でも、ケースによっては手術代の一部を補助してくれるということも。

「ここには6、7匹いるみたいだけど、いつも来るおばさんは、それぞれ名前を付けているみたいだね」

生活保護受給者住宅に住んでいるという男は桑田の方を見て言った。

「その猫の名前が何か分からないけど、カッちゃんとかトラちゃんとかって呼んでいるのを聞いたことがあるんだ」

「しかし、新しい猫も捨てられたりしないんですかね」

「そうだね。見かけない猫を見たこともあるし、気に入った猫を家に連れ帰って飼っている人もいるらしいから」

桑田には経済的にも身体的にもとてもそうしたゆとりはなかったが、飼い手が見つかるってことは良いことだと思う。


さて、昼の12時を回ったその時間、新横浜で新幹線を降り、ニット帽を被りスタジアムの方へ向かう男がいた。


To Be Continued

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