2011/12/29

フロリダ

桑田はロバートの前にサト子が同居していた男の名は知らなかった。サト子の口からは一度も出なかったが、日本にロバートと行くという電話が入った時、もうその男とは10年くらい一緒に住んでいるが、一度もセックスしたことがないと言った。

アメリカで女性が一人で住むことは危険だから、と言ったが、「籍も入っているの」と桑田が訊くと、「入っている」とこたえた。

日本にロバートと一緒に行くと聞いた時、「彼とは一緒に住んでいるが、私の部屋を貸しているが、互いの生活には干渉していない」と同居している男にふれて言った。「ロバートは良い人で、私に好意を持ってくれてる」とも。

「ロバートは白人男性?」と訊くと、そうだという。

「それなら、今一緒に住んでいる人と別れてロバートと一緒になった方が良いじゃない」

「そういうわけにもいかなのね」とサト子は力が抜けた語尾で言った。

そのときの電話のやりとりから、サト子がロバートと一緒に日本へ来ても、会うことはやめよう、電話にも出ないことにしようと桑田は決心した。
二股かけているようでどうも嫌な感じがしたからだった。

サト子の方からかけてきたのだが、もう1時間以上話していることが気になりながら話していた。
相手はスカイプだというから、こちらもスカイプにすれば無料で話せるが、利用することも少ないしなどと思いながら桑田は聞いていた。

それから更に1時間ほど話して電話が終わった。10時を回っていた。

桑田は、風呂をわかしてないことを思い出した。12月に入って足が冷たくてなかなか寝付けなくなっていた。年齢もだが、パソコンの姿勢からくる頸椎症のためだった。


To Be Continued

Sponsored Links
2011/12/23

フロリダ

日本との時差は、14時間。あちらは朝でこちらは夜か。日米を行き来している経験からサト子の方が日本とアメリカの違いを知っているだろうと桑田は、思った。

「私の親友の百合子さんが亡くなったのね。看護学校で一緒だった・・。どうして知らせてくれなかったのって言ったら、連絡先が分からなかったからって・・」

桑田が最後にサト子と電話で話したのは3年程前だったろうか。桑田はその頃はまだ通信関係のコールセンターで派遣社員をやっていた。そのときかかってきた電話で、その年の夏に彼と一緒に日本に行くから、岡野さんや桑田さんにも会いたい、横浜とか川崎辺りを案内してくれないかと言った。岡野都美子も同じ施設で出会った人だったが、都合がつけば、と桑田は曖昧な返事をしたことを覚えている。

アメリカで看護の仕事をしたいとサト子から相談された時、「それは良い経験になると思う、行ったらいいじゃない」と桑田が言ったのは25年前だった。キリスト教会の紹介だというので、桑田は特に他意なく応えた。

それから10年ほど経った頃、サト子からの手紙が桑田の住む転居先の団地に転送されてきた。桑田は、その後妻と別れて一人でいるなどの近況に触れ、エアメールに連絡先を知らせて送った。

岡野都美子からは毎年クリスマスカードや賀状が桑田宛に届き、半年に一度くらいの割合で電話が入ったが、サト子からは1年に1度ほど電話があったが、すべてフロリダの自宅からだった。岡田都美子とは互いに電話で連絡していると言っていた。

「それで、その後、以前言っていた彼と住んでいるの?」

「あの人とは別れたの」

「じゃあ・・」

「ロバートよ、今一緒にいるのは。彼は良い人よ」

ロバートというのは、3年ほど前に一緒に日本へ来た白人男性だった。



To Be Continued

Sponsored Links
2011/12/17

フロリダ

12月に入っていた。

その日午後のウォーキングの帰りに桑田荘太はドラッグストアに寄った。ほんとうはスーパーで魚やお惣菜を買いたかったが、銀行に預けてある貯金があと100万円ほどになっていることをネットで確認してからやばいと思った。

失業して2年。預金を切り崩す生活を余儀なくされていた。持病の糖尿病や頸椎症もだが、60を過ぎて応募しても特に資格や手に職がない桑田の場合無理だということが分かった。仮に見つかったとしても、自分を殺して合わない仕事をやることはもうしたくなかった。

となると、一切の贅沢はできない。ネットを利用してもっと本格的に稼げるようにならなければと思う。3万余りの年金では、住まいの管理費や光熱費それに医療費、ネットや電話代、医療保険と国民健康保険料と指をおりながら月の払いをカウントする。

ドラッグストアで買ってきた3個入りのうどんの袋を一つ取り出した。何かを作って食べることは桑田には苦にならなかった。

脳出血で臥したままの母は桑田が8歳の時に亡くなった。母が倒れたのは、荘太が5歳の時だった。母は荘太とすぐ上の兄を伴って近くの駄菓子屋へ行った。

倒れたのは店の土間で、兄弟の眼前で前のめりに崩れ落ちた。いくつかの駄菓子を注文している最中だった。店のおばさんは、小さな体に母を背負い坂道を桑田の家まで運んでくれた。

以後寝たきりで何もできなくなった母を思うと、学校に上がった荘太は、教室の窓から見える花壇を見るととても悲しくなった。家に帰っても迎えてくれる母がいない。どうして自分だけこうなんだろう。暗い気持ちを話す相手もいなかった。

その後、幼い荘太も男兄弟交代で米をとぎ、食事の支度を手伝うようになった。

フライパンで野菜を炒め、うどんをのせ卵をわった。
牛乳と高血糖対策の桑の葉茶でラジオを聴きながら夕食を済ませた。

片づけをおえて炬燵にあたろうと思った時、突然電話が鳴った。

聞き覚えのある女性の声だった。

「わたし、サト子です。桑田さん、今大丈夫?」

「ああ、砂田サト子さん・・」
砂田サト子とは、桑田が神学部の2年目に休学して千葉の身心障害者施設に働きに行ったときに出会った女性で、フロリダに住んでいた。

「そちらは、今何時ですか?」
「朝の6時半よ」



To Be Continued

Sponsored Links
2011/12/15

レッドストライプ

「ここは、ジャイカ地球ひろばのサテライト施設なのね」

「ジャイカの・・」

「2005年に愛知県で開催された、愛・地球博の。地球社会や途上国の人々への理解と共感を推し進める、中部地域の国際協力の拠点になることを目指してるって言うあれよ」

「あの、緒方貞子さんの、国際協力機構か・・それで、このお店には外国人が来るわけか」

「そうね」

届いたタイ料理を二人は美味しそうに食べた。
たしかにレッドストライプはちょっと辛いタイ料理にマッチしていた。シュワーっとした感じと炭酸のピリっとした感じが思ったより春利の好みにあっていた。来未もタイ風スープ麺を食べながら、レッドストライプを注いだコップを静かに口へ運んだ。

正午を回ったころには、二人の周囲の席もをグループでやってくる客でほとんど埋まった。あたりには、タイ語も英語も飛び交い、海外のお店にいるような雰囲気にかわっていた。


「今日は僕が払うから」
春利は来未から受け取ったクーポンを勘定書と一緒にレジの女性に渡した。

「ごちそうさま」来未はぺこりと頭を下げて言った。

「いや、僕のほうこそ、安くて美味しい店を案内してもらって良かったよ」

ドアの外に出ると春利は肌寒さを感じた。陽射しは雲に覆われていた。

「あそこ、暖房が入っていたのね」来未が春利の方を見て言った。

「もう、11月下旬だものな。そろそろ冬物に変える時期かな」春利は薄手のジャンパーのチャックに手をやった。

「わたし、これだもの、寒くないわ」来未が笑顔で言った。



To Be Continued

Sponsored Links
2011/12/04

レッドストライプ

「ここにはモロッコやタイやジャマイカのビールがあるのね。この前、レッドストライプっていうジャマイカのビール沙希と半分に分けて飲んだけど、味はさっぱりしていて美味しかった。ちょっと季節はずれかな」

来未の視線が沢に向けられた。春利は少し笑っている来未の目元にふと母の笑顔が重なった。

「僕はお酒は弱い方だけど、一杯くらいなら良いよ。どんなものか試してみよう。それで、メインは、タンザニアチキンシチューってのもおもしろそうだけど、今日は、タイ料理に挑戦してみようかな」

「じゃあ、私も、タイ風スープ麺にするわ。ちょっと辛いタイ料理だと、ジャマイカのビール、レッドストライプと合うかもしれないわね」

「よし、じゃあ僕は、日替りランチ タイ風スープ麺ていうのにしよう」

春利が手をあげた。

「ところで、レッドストライプってジャマイカ3大名物の1つなんだって」

「じゃあ、後の2つは?」と春利。

「ネットで調べたら、ブルーマウンテンとレゲエとか」

「ほう、ブルーマウンテンとレゲエね」

春利はコーヒー愛好家ではなかったが、音楽は浅く広く聴いていた。

二人が注文を終えた時、入口の方でざわめきがして複数の話し声が飛び交った。
10人くらいの若い男女のグループが現れ、中に外国人の姿もあった。


To Be Continued
Sponsored Links
2011/12/03

レッドストライプ

春利がささしまライブ駅に着いた時11時を回っていたが、来未は来ていた。
来未が昨年春に転居したとだけは聞いていたが、あおなみ線だということは今回電話で初めて知った。

レギンスにベージュのジャケット姿の来未は、ここを行ってすぐのところにあると、通りのほうへ視線を向けて言った。感情の起伏が大きくなく極端に裏表のないところが春利は好きだった。

「ランチタイムは、11時半から2時までなので、これから行って良い席が空いているといいけど」
来未は通りを歩いている若い男女に目を向けて言った。

「ネットで観たら、広そうな店だったけど、混み具合はどうかな」

「この前沙希と行ったときは日曜だったけど、あの頃だとテラス席も利用していたし、空いている席もいっぱいあったから大丈夫だと思うけど」
沙希というのは、会社で一緒に事務をやっている来未の親しい同僚だった。

ほんとうに3分ほどで二人は大きな建物の前に着いた。

来未が指さすほうを見て、二階建ての一階にその店があることを春利は初めて知った。ネットで観たのは、店内だけの写真だったから、外観がどうなっているかは分からなかった。

エスニックという感じだろうか。写真よりも広くて明るかった。客もそれなりに入っていたが、それ以上にフロアは広く、どっしりした木製の椅子やテーブルがいっぱい並んでいた。

落ち着きを漂わせる木製の床を移動して、二人は窓よりの空いた席へ行った。

向かい合って座ると、店員がやってきた。

「今からランチ大丈夫ですか?」来未が先に言った。
「はい、大丈夫ですよ。そちらのメニューに、週替わりと日替りランチがのっていますので、決まったらお呼びください」

落ち着いた口調で女性店員が言った。



To Be Continued

Sponsored Links