2016/01/31

架け橋

春利にメールが入ったのは、9月の第二日曜日の午前中だった。ミナは京都に戻ろうと武蔵野にある生家から駅へ向かって歩いていた時、突然彼らの空飛ぶ乗り物に吸い上げられたが、詳しいことはパソコンのスカイプで話したいと言ってきた。

準備をして発信しようとした時、先にパソコンが唸りだした。パソコンに映し出されたミナの顔はいくぶん青ざめているようにも見える。

「一体どうしたのか、詳しく話してもらえますか?」

「私も突然のことで、急に体が宙に浮いて、気がついた時には、マザーシップの一室にいたんです」

「マザーシップ?」

「ええ、全体像を映して見せてくれたんだけど、10キロもの長さがあり、あの葉巻型の物だったわ」

「10キロ! 良くネット上のビデオで見られるあれ?」

「そう。ほとんど同じものだったわ」

「それで、彼らがミナさんを拉致というか、突然そのマザーシップに連れ込んだわけは?」

「ええ、背の高い金髪で碧い眼の女性のようで、肌は蝋のように白かったわ。彼らの種と人間との架け橋になって欲しいと」

「架け橋?」

「ええ、プアビさんと言って、悪いエイリアンというというより高貴というか徳が感じられたわ」

「プアビさん。どこかで聞いたことがあるような。じゃあ、我われ人間に近い感じの・・」

「確かに違ってはいるけど、北欧人に近いというか」

「詳しいことは分からないけど、そのことを伝えるためにその方はミナさんを選んだわけだ・・。それで、特に危害を加えられることもなく戻されたんですね」

「ええ。帰りは小型の円盤型スペースクラフトで、気がついたら京都の賀茂川の川岸へ降ろされていたのね」

To Be Continued

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2015/06/10

別な空間

喫茶店を後にした二人は、今度は横浜駅の東口へ向かった。日曜のその時間は西口より東口の方が空いているかもしれないとの荘太の意見に従った。

地下街へと階段を下りていき、数件当たると中華料理店の前に立っていた店員が、「お二人ですね。大丈夫ですよ」と誘いの言葉を投げかけてきた。歩き回るのも大変だから、と、父に合わせて中へ入った。

ちょっと早い夕食をすませた二人はJRの改札前で別れた。

春利はふたたび西口へ戻り、あざみ野と湘南台を結ぶ市営地下鉄ブルーラインに乗った。下車駅を一駅やり過ごして、岸根公園駅で下車した。少し歩いて帰りたかった。春利の足で寄り道しなければ徒歩で30分余りで住まいに着く。小学校の低学年の頃、母ともいくどか来たことのある公園だった。

上海から戻り、現在の公団の分譲に塾を兼ねて住むようになり、塾の仕事がない日は散歩がてら立ち寄ることがある憩いの場でもあった。その広い公園は、1940年に防災緑地を兼ねた場所として整備が始まったが、戦時中は軍の基地で、戦後は米軍に接収され、1970年代になってようやく接収解除にともなって整備されたということを聞いたのは、数か月前のことだった。

犬の散歩で来ていたお年寄りと偶然中央広場のベンチで隣り合わせたのだ。杖をつきながら、ゆっくりゆっくりやって来た。犬は老人の足下に座って尻尾をふっていた。

「わしも天涯孤独でね。この齢になると、近所に知った人もなくてね。この犬と暮らしていて、週に二度ヘルパーさんが来てくれるんだ」

あ、そうですか、と春利が相槌を打っていると、いつの間にか公園のことに話が及んだのだった。

話しが一段落すると、老人は杖をついてゆっくりと立ち上がり、「では、もう少し犬の散歩をして」と、春利とは反対方向へ歩いて行った。

春利は、一面に草の生えた「ひょうたん原っぱ」と呼ばれている広い平地を歩いていた。周囲には常緑樹の古木や背の低い木々も生い茂っていた。ところどころにベンチが並べられていて、犬の散歩で疲れた人が休んでいた。

家族連れでやって来て、キャッチボールやバトミントン、サッカーボールを蹴っている子供たちも、辺りが暗くなってきたことで帰り支度を始めている。

春利は、藪蚊が少なそうなベンチをめがけて歩いて行った。まだ帰りたくなかった。避けて通れない、何かが起こりそうな予感がした。

To Be Continued

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2014/04/22

メッセージ

桑田荘太は数時間おきにパソコンのスカイプ画面をチェックしていた。

65歳になり生きる楽しみは薄れても、与えられた命を最後までまっとうしようと思った。微かな信仰かもしれないが、高校生のときに初めてであったキリストを通じての祈りが彼を支えていた。

だが、ここへ来て、桑田には新たな希望が開けていた。インターネットを通じて、5歳のときに別れた息子を捜すことが出来た。メールを送った時は、相手が仮に息子の春利だったとしても、自分を捨てた父親なんて親でもなんでもないと相手にしてもらえないかもしれないと思った。

しかし、息子は受け入れてくれたようだ。メールを交換し、互いの写真を送りあうことも出来た。そして上手くいけば、上海にいる春利とスカイプで互いの顔を見ながら話すことが出来る。これは神の導きだったのかもしれない。メールでの添付ファイル画像で現在の春利の顔や会社ビル、上海の風景の一部を知ることが出来た。

5月に入り、一部の種類の桜を残しては大方散ってしまったが、それに比べたら白い大きなコブシの花が咲き、つづいてハナミズキの街路樹が白やピンクの花を咲かせている。

陽射しが部屋を明るくした時、桑田は、25年前に春利を連れて行ったスタジアム周辺に行ってみようと思った。日曜だから人出が多いかもしれないが、にぎやかなのも良いと思った。午後3時を回ったところだったが、日照時間もだいぶ伸び、6時過ぎても明るから、と。

帰ってきたころ、春利のスカイプもつながっているかもしれない。

To Be Continued

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2012/04/06

新横浜駅前公園

女の子は猫の頭を撫でつづけようとするが、猫はスルッと体をかわす。逃げて行ってしまうかと思えばそうではなくその辺りを歩き回る。

逃げ去らないのは餌付けされているからかもしれないが、ある時期まで大事に飼われていた猫に違いないと桑田は思う。

「よく肥えていて人懐こい猫ですね」

「お腹が膨れているから子持ちかなと思ったが、ここにいる猫は、雄は去勢手術をしているし雌は不妊手術をしてあるらしいから」

心ある人が身銭を切ってやっているということを桑田も聞いたことがあった。市の方でも、ケースによっては手術代の一部を補助してくれるということも。

「ここには6、7匹いるみたいだけど、いつも来るおばさんは、それぞれ名前を付けているみたいだね」

生活保護受給者住宅に住んでいるという男は桑田の方を見て言った。

「その猫の名前が何か分からないけど、カッちゃんとかトラちゃんとかって呼んでいるのを聞いたことがあるんだ」

「しかし、新しい猫も捨てられたりしないんですかね」

「そうだね。見かけない猫を見たこともあるし、気に入った猫を家に連れ帰って飼っている人もいるらしいから」

桑田には経済的にも身体的にもとてもそうしたゆとりはなかったが、飼い手が見つかるってことは良いことだと思う。


さて、昼の12時を回ったその時間、新横浜で新幹線を降り、ニット帽を被りスタジアムの方へ向かう男がいた。


To Be Continued

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2012/03/31

新横浜駅前公園

桑田は来る途中「猫にエサをあげないでください」と看板が立っていたことを思い出す。コンクリートの上に撒かれた粒を次つぎと吸い取ってゆく猫を見ていると、じゃあここに捨てられた猫たちはどうやって生きて行けばいいのか、公園内に猫たちの空腹を満たすエサがあるのだろうかなどと桑田は思う。

悪いのはここに猫を捨てに来た人ではないのか。

10メートルほど離れたフェンスの下に三毛猫が現れたが、警戒して近寄っては来ない。

「お宅はこの辺によく来ますか?」
桑田は戻ってきて隣のベンチに座った男の方へ言った。

「俺は、この向こうの、生活保護の住宅に住んでいるんだ。こんなのいくらのもんでもねえから、週に1回か2回来るんだ。ふだんはいつも餌をやりに来るおばさんがいるんだ」

「毎日来るのでしょうか?」

「そう、今日はどうかな」

確かに、31日だと家族がいる人だといろいろと忙しい日だから、来ないかもしれないな、と桑田は思う。

「お宅は前からそこに住んでいるんですか?」

「俺はここへ来る前は千葉の方に住んでいたが、1年前ほど前にこっちへ来て仕事探していたが、胆石になってあそこに入院したんだ」

男はみぞおちの辺にちょっと手を当て、視線は川の向こうへ向かっていた。スタジアムのずっと右の方に労災病院の名前が建物の上に大きく出ているのですぐにそれと分かる。

「じゃあ今でも通ってるんですか?」

「いやもう大丈夫。それで仕事探しているんだ。65とかなれば言われないけど、仕事探してるかチェックされるから」

「生活保護は、受けるにはいろいろと大変だったでしょう」

「それは、銀行口座から何からぜんぶ。・・いろいろ引かれると月4万くらいかな残るのは」

「お風呂もあるんですか?」

「共同風呂がね」

「食事もお風呂もあるんだと良いですね」

「まあね、ただ、こっちへ来て見て、車の免許もないんじゃなかなか仕事がね」

男は50代後半だろうか。いろいろ引かれて4万円手元に残るんだと桑田の年金より多いが、どんなボロにせよ持家もないし貯金もなくて仕事を探しているんじゃ大変だと男の横顔を見る。

ばら撒かれた餌を食べ終え、舌をペロペロやっているぶち猫の側へレギンスの似合う若い女の子がやってきてしゃがんだ。


To Be Continued
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